−『エースの条件』−

 『アパッチ野球軍』のDVD BOXが発売されて感無量の諸氏も多い事と思うが、主人公・堂島剛の高校生時代を描いた花登筐原作・水島新司作画の前作『エースの条件』についての資料が意外と無い。原作はとうの昔に絶版になっているし(ただし入手は比較的容易)、ネットでもなかなか概略を説明したテキストが見当たらないので、筆者の記憶に残っている部分をここに記させていただこう。これを読んでいただければ、『アパッチ野球軍』の最終回、堂島剛が嫁を貰ってアパッチ達と別れる姿に一層感慨深いものを感じていただけると思う。

登場人物
堂島剛(主人公。朝陽高校野球部部員)
堂島サチ子(妹。小学校高学年か中学生ぐらい?)
堂島しず子(母)
堂島剛造(父。酒飲みの肉体労働者)

十円ハゲの後輩(三平だの五郎だの、名前があったのだが失念。剛の親友。頭が弱く、三枚目。サチ子に惚れている)

ネギ先生(剛の恩師。元プロ野球選手だったが、戦争で左腕を失い、野球生命を絶たれる。その後野球部監督に就任。)
野球部主将(生真面目で善良、野球部で中立だから、剛の味方)
ガジ(野球部監督。ネギの後輩。野球部で中立だから、剛の味方)

広部光一(野球部のライバル投手。そこそこ実力はある)
広部の父(朝陽高校理事長。大企業のオーナー)
広部令子(光一の妹。サチ子と同年代? 広部家の良心)

(剛腕派の投手。父が広部の使用人なので、野球部に引っ張られるが剛の失投で怪我をして野球を断念)
    
朝陽高校校長(広部の味方で小心者)
金持(名字が「カネモチ」。朝陽高校PTAのお偉方。娘を広部光一の嫁にしようと、広部にベッタリ。女房は病弱)

 主人公・堂島剛は長屋住まいの貧乏人。大阪・朝陽高校野球部でエースピッチャーとして活躍を期待されるが、同じ投手で理事長を父に持つ広部光一によってその才能と存在を憎嫉され、事あるごとに嫌がらせを受けていた。
#換えのアンダーシャツを隠されて汗まみれで投げ続ける羽目になるとか、合宿の飯にハエを入れられたり、試合前日に合宿の部屋を閉め出されて一晩室外過ごさせられる、など。
 そんな彼の心の支えは家族と親友の十円ハゲ、広部の妹・令子、そして野球の恩師・ネギ先生だった。
 そんな折り、鉱山に働きに行っていた父・剛造が落盤事故に巻き込まれ、死ぬ直前の同僚からその家族に託された財布を持っていた事から窃盗犯として逮捕され、刑務所入りとなる。
 「泥棒のせがれ」として野球部内でますます広部達に虐められる剛だったが、騒音の激しい工事現場で投球練習をして集中力を身につけたり、鋳物工場で利き腕でない右腕を鍛えてスイッチ・ピッチャーのスキルを身につけるなどして、野球部のエースとして精進を続ける。
#新たに入部してきた広部家の使用人の息子で投手・林に怪我をさせたりしている。
 しかし地区大会で試合を見学に来た剛の母・しず子に対して広部の父が罵倒の言葉を浴びせかけ、走り去ろうと球場を出たところを車に跳ねられ、大怪我を負ってしまう。
#広部令子は入院したしず子に対してラジオや見舞金を置いていくが、それはすぐに広部光一にばれ、さらなる彼の剛への憎しみを買う。
 大阪大会の決勝戦で剛はパワーヒッター・牙野(黒人とのハーフっぽい巨漢)によって追い詰められながらも、起死回生のランニングホームランで延長戦にもつれ込む。しかしその時、しず子の容態が悪化。悩んだ末にガジ監督は剛を病院に行かせ、広部をマウンドに送る。剛は母の死に目に会うことができるが、試合は広部が滅多打ちされて惨敗する。
#妻の入院を知って剛造が脱獄、病院で警察に取り押さえられる。しかし「脱獄なんて母さんは望んでない」と、剛は剛造と母の遺体との面会を拒絶する。また、その後経済的に苦境に陥って野球部を辞めようとする剛に対して、ネギが剛のの長屋に転がり込んできて下宿代を払って支援をしてくれる。
 敗戦の責任を取って、広部親子に毅然とした態度をとり続けたガジ監督が辞任。それを喜ぶ校長だったが、逆に従来弱小だった朝陽を決勝進出させた監督の辞めさせた事に対して周囲が激怒、泣きつく校長に対し、ガジはネギを後任に推薦する。
 ネギの野球部監督就任により野球部は新しい一歩を踏み出すが、その頃剛にはプロ野球のスカウトが執拗にまとわりつくようになっていた。広部親子はしず子に金を貸していた金持を利用して、剛に借金の返済を急がせる。計略は当たり、剛はプロ野球チーム・グレイタースと契約をしてその前金を借金に充ててしまう。その件をマスコミや周囲に嗅ぎつけられそうになり、剛は窮地に陥るが、全てを知ったネギがグレイタースに赴いて直談判・土下座し、その心意気に打たれたグレイタースのオーナーは契約を白紙に戻すことを約束する。
 剛の追い出しを断念した広部親子は、朝陽高校から去り、別の強豪高校に転校。しかしそこは父兄からの寄付金が潤沢で、広部の父は全く発言権を持つことが出来ず、広部光一は野球部で下っ端としてしごきにしごかれる。
 そして次の地区大会で朝陽高校は広部のいる高校と対戦する。チームワークに目覚め、剛と正々堂々と勝負できなかった自分を恥じながら、懸命に投げる広部光一と、広部の父の奸計により利き腕に怪我をしながらも力投する剛。出所して駆けつけてきた父・剛造の声援を受けながら最後まで力投した剛は、結局試合に負けるのだった。

その後……『アパッチ野球軍』で描かれた剛の姿。
3年の夏の大会で甲子園出場を果たし、決勝戦で完全試合を記録した剛の元にプロ野球のスカウトが殺到。その契約金目当てで真人間に戻る約束を忘れ、再び酒に溺れ始めた剛造を立ち直らせるために、剛は己の左手に割れた酒瓶を差し、自らの投手生命を絶つ。しかしそれによって剛造は真人間に戻るが、結局3年前に亡くなってしまった。そしてサチ子は結婚。抜け殻のようになった剛に、ネギが田舎の学校で野球を教えろと言い出す……。


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