−『アパッチ野球軍』−

 主に大阪下町の人情こもごもの悲喜劇を描いた花登筺。その代表作の一つ『アパッチ野球軍』の「正編」である『エースの条件』から話は始まる。

 水島新司と花登筺が組んだこの漫画は、朝陽高校野球部の投手である主人公堂島剛(超貧乏人)がエースの座を狙うライバル投手で、学校の理事長の父を持つ金持ちの広部にいじめ抜かれる。さらに堂島の父は泥棒の罪で刑務所行きになり、剛とその妹を支えていた母親は広部の父にいじめられて飛び出したところを車に跳ねられて死ぬ……というように延々と貧乏人の悲劇が繰り返され、最後順調に高校野球大会を勝ち進んだ堂島は、出所して駆けつけた父の見守る中、転校してそこのエースとなった広部のいる強豪の高校と対戦、怪我した腕で投げ抜き、結局試合に負けて終劇という、涙ドロドロの漫画であった。

 そして梅本さちお画による同題の漫画のアニメ化作品『アパッチ野球軍』で、新しい堂島の受難が描かれる。その後甲子園大会で優勝した堂島にはスカウトが殺到し、提示される多額の契約金に目が眩んだ父親は再び身を持ち崩し、それを諫める為に堂島は自らの利き腕を潰してプロ野球選手への道を断つ。しかし父親はすぐに死亡、妹は嫁に行ってしまう。抜け殻のようになった彼は、田舎の寂れた村の学校の教師兼野球部監督として招かれる。

 それにしても、当時多くいたであろう過疎地の学生を、「アパッチ」と呼んで、カッペは野蛮人だと豪語する設定は凄まじい。エンディングテーマ(作詞・花登筺)で「少々頭は足りねえが腕力だけは十二分、山奥育ちの材木ゴシゴシ」こと巨漢のザイモク、「少々背丈は足りねえが韋駄天だけは十二分、猿が仲間のモンキー」こと身軽さが売りでサルそっくりの老けた顔をしたモンキーほか、ナイフ投げの名手で番長格のアバシリ、文字通りホッペの赤い田舎モンのダイコン、セーラー服にモンペ姿のオハナ、ダイナマイトを爆発させまくる小心者ハッパなど、そんな奴いねぇよ的な勘違い典型人間群像が跋扈する一大フリークアニメの出現は奇矯に過ぎるが、次々と心を通わせていく堂島とアパッチたちの姿はやはり感動的である。

 なんとか野球チームを結成したアパッチ野球軍は、高校野球の強豪QL学園と対戦する。なんとかリードして迎えた最終回、爪を割りながら力投するアバシリがホームラン級の当たりを打たれる。それを追うモンキーは、バックスクリーンを駈け登り、見事キャッチ!

 「アウト〜!」(じゃねぇだろうが!)、試合に勝利。ところが彼等の通う学校は「私塾」であり、全国高校野球大会への出場はできないとの高野連の通達に、メンバーの怒りは爆発(だいたい女学生の選手もいるし)。「高野連へ殴り込みじゃあ!」と息巻くメンバーたちだが、堂島の説得に納得。務めを負えた堂島が帰郷することになり、フェリー乗り場に集まるアパッチたち。見事校長の娘(美人)を連れて去っていく船上の堂島と涙の別れをするアパッチたち。「畜生、泣かせるじゃねぇか」と鼻を啜り上げるアバシリ。熱き男(+女)たちの熱闘譜は終わりを告げるが、その感動は、なんと韓国映画『外人球団』によって復活する。


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