−山田ゴロの『ライダーマン』−

 ここで紹介する『仮面ライダー 謎の男ライダーマン!』は、1号からストロンガーまでの歴代ライダー達の誕生から別離までをまとめた、石森プロの山田ゴロの筆による、テレビランドの別冊付録漫画の一冊である。なんとこの漫画、まるまる188ページにわたって、ライダーマンの半生を描いているのだから,ライダーマンファンにはたまらない。

 TV版『仮面ライダーV3』の末期に登場したライダーマンこと結城丈二はデストロンの優秀な科学者だったが,その才能と信望を恐れたヨロイ元帥の陰謀で処刑されかかり,その時に失った右腕にアタッチメントを着用,ライダーマンとして復讐を誓う。そして最後、デストロンが東京へ向けて発射したミサイルに乗り込むと,ミサイルの軌道を変え,絶叫とともに自爆して果てるのである。このライダーマンの雄々しくも哀しい最後が脳裏に焼き付いている人も多いだろう。

 本作ではそのライダーマンの,TVに全然出なかった過去が描かれる。表紙をめくると……「ぼくの手はべんりでしょう」という台詞とともに、右手にラケットをはめてテニスをしている笑顔のライダーマンが……。これだからガキ向けの漫画は……。

 冒頭,花登筺のドラマにでも出てきそうな貧乏な平屋が登場する。布団に身を横たえたおばさんの横に,「おかあさん おかゆができたよ」と登場する少年時代の結城丈二。

「おまえは食べないのかい?」

「ぼくはもう先に食べちゃった」

 ……腹の虫を鳴らしながら,丈二は机で勉強する。それを見て、「とても頭のいい人でいろんな機械を発明」した夫を思い浮かべる母親。そんな中,天井裏からデストロンのスカウトマンが母親のお粥の中に毒液を垂らす。血を吐いて死ぬ母親。そして一人通夜を迎える丈二のもとに,先ほどのスカウトマンが誘いに来る。

「おじさん…だれなの?」

「世界統一をめざすデストロンの者だ!!」

「デストロン?」

「デストロンはきたるべき世界のために きみのようにかしこい少年を集め教育しているんだ デストロンへくればこんな貧乏をしなくてすむぞ しかも勉強もスポーツもできるぞ」

 身寄りのない丈二は,そのままデストロンへ向かう。そこはデストロンの学校で,同世代の少年達が勉学にいそしんでいた。入学後,いきなり首位の成績を収める丈二(当然彼をやっかんでいやがらせをする青山という少年が登場するが,本筋とは関係ないのでここでは省略する)。彼の優秀さはデストロン基地の司令官ヨロイ元帥の目に留まり,丈二はヨロイ元帥に呼び出される。

「おまえを特待生にしてやろう これからはわしを父と思いなんでも相談するがよい」

 年月とともに丈二は,デストロン技術部の若手科学者として信望を集める。しかし口々に丈二を誉める冒頭のスカウトマンや戦闘員達に,ヨロイ元帥は憎嫉する(その度に相手を殴り殺しているんだから,困ったもんだ)。その頃丈二は,同僚の科学者達から,自分を救ってくれたデストロンは世界統一を目指す正義の組織などではなく世界征服を企む殺人結社であり,科学者達が反乱を企てていることを知らされ、混乱する。

 そして作戦会議で丈二は新発明のレーザー銃を発表する。それを配下のヨロイ怪人に取り付けようとするヨロイ元帥の考えに,丈二は反対する。動きの遅いヨロイ怪人では,せっかくのレーザー銃を生かし切れないのだ。

「きさま わしの軍団をばかにするのか!!」

 突如ヨロイ元帥は椅子の肘掛けから斧を取り出すと,血しぶきも激しく丈二の右腕を叩っ切った。

「ヨロイ元帥め!! きっときょうのことを後悔することになるぞ!!」

 怨みの視線を向ける丈二は、科学者達によって直ちに右腕の形をしたアタッチメントを手術によってはめられる。しかし手術終了後,反乱計画を知ったヨロイ元帥によって科学者達はその場で皆殺しにされ,死体はゴミ捨て場に廃棄される。夜,その中から立ち上がり,デストロン基地を後にする丈二……。

 数年ぶりに人間社会に復帰した丈二は町の電器店に住み込みで働くが,デストロンの追っ手ノコギリトカゲによって店の主人を負傷させられ,公園で初めてライダーマンとしての姿を現す。ただしこのライダーマン,TV番組のように弱いくせに突進しまくる無茶さはない。自分の弱さをきちんと把握しつつ,科学者らしく相手の弱点を考慮する。

「おまえはトカゲの性質をもっている おまえは自分で体温を調節できないんだ!!」

 ライダーマンは公園の植物に火を放ち,炎の中で立ち往生するノコギリトカゲの首を切断して、見事倒す(強い……)。

 その後ライダーマンはV3を狙うデストロン怪人達を殺し、V3に忠告を与え続ける。

「どうしてそんなことをつげにきた」

「おまえをほんとうに殺すのはおれだからさ!! これがおれをどん底の生活から救いあげてくれた組織への忠誠だ」

 そしてライダーマンはレーザー兵器を着けたヨロイ元帥ことザリガーナに苦戦するV3に協力し、ヨロイ元帥を滅ぼす事に成功する。

 さて、幼い兄妹が、行方不明になった兄を捜して東京のある工事現場を訪れる。邪魔だとばかりに子供たちを叩き出す作業員を、突如現れて殴り倒す丈二。

「おれは子どもにやさしくないやつは大きらいなんだ!!」

 そしてテレビで放映された新宿の高層ビル「ペンタゴン」の建築現場に兄の姿を見た兄妹はペンタゴンに向かうが、そこはデストロンの秘密基地だった。V3と共に、ペンタゴンに侵入するライダーマン。

「ライダーマン」

「V3かんちがいするな おれはおれのためにこうしているだけだ」

 ビル内でデストロンの怪人および戦闘員と乱闘になるライダーマン達。V3は戦闘員(ロボット)を股裂きにし、ライダーマンは怪人の鼻孔にロープアームの鉤を引っかけ、顎を裂く。戦いが続く中、ついにこのビルの正体が明らかにされる。ビルの中央が吹き抜けになったペンタゴンにはデストロンのDロケットが収納されていた。Dロケットが宇宙空間に打ち上げられれば、デストロンはそこから世界中に「ものすごいエネルギー弾」を発射することができるのだ! 眼前で発射されたDロケットを追って、ビルの窓をぶち破り、戦闘員達をなぎ倒し、ロープアームをDロケットに引っかけるライダーマン!

「ライダーマン やめろ はずすんだ!!」

「へっ じょうだんじゃねえ このロケットを破壊できるのは もと科学者のおれだけだ!!」

 Dロケットの外壁にへばりつきながら、ライダーマンは叫ぶ。

<かあさん!! ぼくはもうすぐかあさんのところへいくよ!!>

 新宿のビル街から空へと昇り、そして暗黒の宇宙空間で爆発するDロケット(この後V3が「きみこそは4人目の仮面ライダーだ」などとつぶやくのが続くが、省略)。

 さて,仮面ライダーも最新作の「J」で十四人を数える大所帯になったが,意外と「仮面ライダー」の基本コンセプトを維持し続けた作品は少ない。仮面ライダーが魅力的だった点は、主人公が悪の組織の一員として誕生させられた、つまり「完全な善」の存在ではなかった事。そして奇形的肉体故の社会的異端ともいえる自己の存在に対する懊悩と憎悪(だからライダーは「仮面」を着けるのだ)。そしてそれを生み出した敵組織への怒りである。

 そう、仮面ライダーが本来持つ魅力は、人間社会に受け入れられない醜悪さと、その戦いの行動原理が大義でなく、復讐者の暗い怒りという、従来の光に包まれたヒーローに対するアンチテーゼともいえる背徳感にあったのだ。しかしそれが人気子供番組として定着した時、本来アンチヒーローだった仮面ライダーは、明るく自分が正義であると当然のごとく主張する凡百のヒーローと化していったのだ。その典型が、V3である。最初こそ復讐者だったV3も、宮内によって、ただのキザなカッコいいヒーローとなっていった。

 そしてそのアンチテーゼとして登場したライダーマンこそが、一見数ある仮面ライダーの中で異端的な存在であるように見えて、実は原点に帰った、正当な仮面ライダー本来の姿であるというのが、筆者の考えだ。仮面ライダーなら、万人に侮蔑されろ! そして苦しみ、悩め! 怨みと怒りの感情を仮面に隠し、法や情を否定して突き進め! ライダーマンは人間社会、デストロンという悪の組織、そして仮面ライダーという正義の奇形集団のいずれでも異端であり続ける、鉄人タイガーセブンと並ぶ男の中の男、真のヒーローなのだ!

 本作では、TVでライダーマンの親代わりであったデストロン首領がヨロイ元帥に置き換えられて人物関係が簡略化されてしまった部分もあるが(無論TVとの細かい相違点は数限りない)、結城丈二がどのようにデストロンに加わり、なぜ人間社会よりもデストロンを愛していたかを浮き彫りにし、そして丈二が怜悧な頭脳を持つ科学者であったという面をTVより強く打ち出している。そして彼のクールさ、他人の愛を拒否するのは、愛を欲し、それを奪われ、裏切られた事への経験によるものだということを強く語りかけてくる。

 それ故に最終的に彼の死が、TVではV3が「人類愛」の一言で説明していた空疎な理由によるものであったのに対し、本作では「家族愛」を求めつつ、それを手に入れることができなかった孤独な男の、死に場所を求める弱い心が多く含まれていた事を匂わせている。……というのはうがちすぎかもしれないが、少なくともTVとは全く違う世界を構築するでなく、一人のサブキャラクターに焦点を合わせ、TVの中の世界をより奥深く肉付けした本作の存在は貴重である。少なくとも、ライダーマンの過去を語る「公式」の資料は、「原作・石森章太郎」のこの漫画だけなのだから。


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