−『孤独のマラソンランナー』−

「孤独のマラソンランナー」の主人公は、一人の少年である。彼は歩いて通える距離にあるハイスクールに通い、目と鼻の先の近所に住む、同じ学校に通う美人女子高生に恋をしていた。ところが彼には、一つ重大な問題があった。

 この年齢になって、夜尿症が治っていなかったのである。夢精なら下着一枚洗濯機に放り込めば済む。しかし毎夜のように布団に描かれる世界地図に、彼は悩んでいた。彼ばかりでなく、母親も悩んでいた。というより、怒っていた。

「いいかげんにしなさい!」

 ある日学校から帰ってきた彼は、とんでもないものを目にする。自分の世界地図布団が、通りに面した、ご近所によく見える窓にこれでもかといわんばかりに干されていたのである。

「母さん、ひどいよ。やめてくれよ〜」

「こうでもしないと治らないでしょ。これから世界地図描いたら、容赦なく外から見えるように干すからね」

 死刑宣告に等しい母親の一言にうなだれる少年。自分の世界地図布団がでかでかと干される。爺婆に見られるのはともかく、憧れの彼女にだけは見られてはならない!

 かくして翌日から、少年の戦いが始まった。寝小便した日は、家に早く帰る! 彼女が帰宅して世界地図布団を見る前に、布団を取り込む! そのために寝小便した日は、終業ベルが鳴った瞬間、挨拶もそこそこに少年は一直線に学校から家までの長い距離を走って帰った。

 いっこうに夜尿症は治らない。春夏秋冬、雨の日も風の日も少年は駈け続けた。

「先生! お先に!」

 ある日グラウンドを猛スピードで駆け抜けて行った少年に、運動部の顧問を務める教師が目を付けた。タイムを計ってみると、これがもの凄い新記録。早速彼は陸上部にスカウトされ、日々是特訓。かくしてフォレスト・ガンプのようにしゃにむに走り続けた少年は、やがてオリンピックに出場するのであった……。

 ちなみにこの作品、どーも実話を基にしたものらしい。スポーツ選手は勝ってなんぼの商売である。例え勝っても自分の商品価値を永続させるために、イメージアップを図らねばならない。いつもスマイル、謙虚な振る舞い。ここぞとばかりに自伝本を出して、自分の苦しく悲しい幼少期とそこからいかに苦労を重ねて現在の栄光と勝利を勝ち取ったかを大衆にアピールしなければならない。

 しかし「孤独のマラソンランナー」の主人公は、自分の成功談を美化するどころか、普通そこまでするか? というような恥ずかしい内容を吐露し、挙げ句は映像化され、日米をはじめとする国内外に自分の夜尿症を曝してしまったのである。実にあっぱれ、白球を追う健全球児の青春に飽きた方には、是非ご覧いただきたいケッ作である。

 ちなみに製作・監督・脚本はマイケル・ランドン。主演映画「心霊移植人間」と併せて、ティーンの苦しみを理解している方ですな(笑)。


Back to A-Room

Back to HOME