−『ザ・マン/大統領の椅子』−

 '70年代の黒人映画ブームは、映画で従来白人が占めていたさまざまな役柄に黒人を進出させた。その中で社会的地位という面から見れば最高峰に位置するのが、米国史上初の黒人大統領誕生を描いた「ザ・マン/大統領の椅子」である。この作品、監督は「地球爆破作戦」「サブウェイ・パニック」などの異色作・佳作で知られるジョセフ・サージェント、脚本はなんとロッド・サーリングという、マニア必見の秀作である。

 訪独中の米国大統領と下院議長が死亡。副大統領は健康上の理由から大統領職を辞退。それに伴い、法律によって黒人のダグラス・ディルマン上院臨時議長が大統領に就任する。彼の肩に、アメリカと国内の黒人千五百万人の運命が覆い被さった。そしてただ一人の家族である学生運動家の大学生の娘との関係がぎくしゃくしたまま、ディルマンはホワイトハウス入りする。

「今日のホワイトハウスは、黒ずんで見えるな」

 人種差別主義者の中心人物ワッツン議員の策動が開始され、大統領の人事権を議会が掌握するワッツン法案が提案される。

 そんな折り、人種差別国家アフリカ民主共和国国防長官暗殺未遂事件が起こり、容疑者の黒人大学生ロバート・ウィーラーがアメリカに帰国する。容疑者引き渡しを要求する民主共和国に、ウィーラーと接見したディルマンは彼の無実を確信し、公正な裁判が行われない懸念があるとして引き渡しを拒否。米国内の世論は真っ二つに分かれる。

 次期大統領選への出馬も囁かれ始められたディルマンだが、事態は急変する。民主共和国国防長官が死亡し、ウィーラーが計画的に暗殺を実行した真犯人である証拠が発見されたのだ。開き直るウィーラーと袂を分かったディルマンを黒人社会の裏切り者と断じた娘は、彼のもとを去っていく。さらに次期大統領を狙う国務長官とワッツン議員の暗躍により、ディルマンは窮地に追い込まれて行く。

 ディルマンは、それが自分を支持する黒人層の反発を受ける事を覚悟しながら、テロリストであったウィーラーの民主共和国への引き渡しを発表。それでも己の信念と謀略渦巻く政界への怒りを胸に、彼は大統領候補指名の党大会へと臨むのだった。

 単に黒人映画ブームに便乗した作品という面もあるだろう。後半の有罪濃厚な容疑者の無実を信じて奔走するがその男が真犯人だったことが判明して窮地に立たされるという展開は、同じ黒人差別を題材にしたSF映画「黒の捜査線」(黒人の肉体に脳を移植された白人検事の物語)と類似しすぎている。それでも政治ドラマとしても、苦悩する被差別的権力者を主役に据えた人間ドラマとしても、十分に見応えありすぎる作品に仕上がっている。最後のディルマンの演説も感動的。こういった拾いものがあるから、テレビ洋画はやめられないのである。


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