マカロニ・マッドマックスの世界『ラスト・ソルジャー』−

 核戦争後の荒廃した未来社会……って、「マッドマックス2」「ニューヨーク1997」の世界的ヒット以来、もう見飽きた感がする。はい、ご想像の通り、変な格好した愚連隊とヒーローがオンボロ車やバイクに乗って、改造銃を撃ち合うアクション巨編です。歌舞伎町シネマ2の世界ですな。こんなもん、今でもレンタルビデオ屋に行けば大量に埃をかぶってますわな。

 その中で、イタリア映画祭協賛企画として木曜洋画劇場が'84年に放送した本作は、翌週放送の「ダンス・フィーバー」と併せて、新作とはいえ、わざわざイタリア映画のインチキぶりを世間にアピールするようなマイナー映画で、ここらへんをお祭り感覚で放送する当たりにテレビ東京の底知れぬダークさを感じてしまいます。

 本作の設定は冒頭に述べた通り。ただ違っているのは、生存者達が階級社会に分かれており、特権階級者達が平民たちをゲーム感覚で殺してもお咎め無し、というところですか。主人公の青年の声の吹き替えは、神谷明。ほとんど「北斗の拳」ですな。展開も似ていました。平民の青年が特権階級の、女がリーダーの愚連隊から逃げ回っているうちに、一人の女と出会います。彼女がヒロインかと思いきや、数分後には二人は愚連隊に見つかり、女は強姦されてあっさり殺されます。復讐に燃える青年は、黒人の中年男性の助けを借りて、バラ線の這う土管の中を走り回ったりしてレインボーマンのような特訓を受けた後、愚連隊が乱交して酒飲んで暴れ回っている洋館に出向きます。どうも貧乏臭いエリート達ですね。

 番犬を殺し、警報装置を解除した青年は、騙し討ちや罠を仕掛けて、次々と標的を殺していきます。逃げようとした一人は、爆弾を仕掛けられたバイクごと爆発して果て、髭面の男はチャンバラやって殺されます。こうして愚連隊は追い詰められていきますが、土壇場で青年はリーダーの女に銃を突きつけられ、絶体絶命の危機に陥ります。銃声一発、しかし倒れたのは女でした。彼に技を仕込んだ中年が、拳銃を手に再登場してきます。N.Y.警察のバッヂを着けた彼は、なんと元警察官だったのですね。彼は「今こそ法と秩序をこの世界に取り戻そう」と力説します。

「いつ始める?」

「大したことはできんかもしれない。しかし、今、始めるんだ」

 そして笑みを浮かべた青年のアップに、感動的な電子音楽がかぶさり、ジ・エンドです。

 映画自体はC級の演出・アクション・美術と、一山いくらの出来です。じゃあなんでわざわざ紹介するんだと言われると、このラストが妙にカッコいいからです。低予算で発端だけ描いて、これから起こる大がかりになるであろう見せ場への赴く決意を描いて幕を引く、というのは少年ジャンプの打ち切り漫画によくあるパターンですが、「あ、ずるい」と思わせる間もなく心地よい余韻と共に終わってしまう本作のラストは、ただ者ではありません。カス映画なのに続編を見たくなるなんて、実にインチキ臭くていいです。「続編はもっと火薬とスタントマンを動員して、スターも呼びますよ〜」なんて営業するスタッフの顔が思い浮かびます。うーむ、これぞイタリア映画の醍醐味なのかもしれませんな。でも、イタリア映画祭なら「ひまわり」でもかけてほしかったです。


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