−凶暴女が親父を私刑『メイクアップ』−

 『メイクアップ』は,男の夢(青年誌の漫画に辟易するぐらいよくある,さえない主人公の住むボロアパートに,ウブで大胆で可愛い女の子が転がり込んでくるというパターン)の顛末を低い予算と豪華キャストで描いた,ちょっとエッチな恐怖映画である。

 何不自由ない平凡な夫婦生活を送っていた中年男サイモア・カッセルは,妻が実家の用で外出した雨の降る夜,予期せぬ訪問者を迎える。雨に濡れた二人の若い娘が,電話を借りに訪れてきたのだ。

 二人の娘に扮する女優は、片や当時クリント・イーストウッドとがっぷり四つに組んでいたソンドラ・ロック、片や『ブルース・リー/死亡遊戯(Game of Death)』で清純なヒロインを演じたコリーン・キャンプ(『Game of Death』に出ていたから、『Death Game』へお呼びがかかったとの説あり……って、言ってるのは俺だけだよ)。いずれも70年代を代表する超大物スターと共演(?)したというだけの女優達だから、純なオジさんを籠絡するのはお手の物。

 誘われるままにエッチスケッチワンタッチに及んだカッセルだが、翌日からあどけなかった娘達は冷笑を浮かべながら手掴みで飯を食い、家の中を我が物顔で闊歩する。ゲラゲラと笑う娘達に恐怖を覚えたカッセルは二人を追い出すが、娘達は執念深くカッセルの家に侵入、彼を縛り上げて虜にしてしまう。それからキャンプはネグリジェ、ロックはシルクハットに燕尾服を身にまとい、口紅ベタベタ、頬紅グルグル、アイラインをギュギューっと塗って、悪魔というか、エノケンの孫悟空のようなメイクアップ。パンツを頭からかぶり、ベッドの上で飛び跳ね、カッセルを居間に拘留すると、トマトをぶつけて小麦粉とミルクをかけて玩弄。赤や緑の原色ギラギラの照明が照らす中、家を訪れた配達夫は殴打され、熱帯魚の水槽に沈められてしまう。

 色を失うカッセルに猫撫で声を出すキャンプとサディスティックに振る舞うロックは、事あるごとに大口開けてゲタゲタと笑い、自分達に対する淫行罪で、カッセルを裁判にかける。判決は死刑。執行は夜明け。なす術のないカッセルの前で二人はレズり、屋敷の中を滅茶苦茶に破壊する。そして朝、ソファに引きずり出されたカッセルに向けて、ロックが肉切り包丁を振り上げる。

「やめろーっ!」

 頭の横に振り下ろされる包丁。

「アハハ、冗談よ〜。怖かったでしょ〜」

 カッセルを放置して、明るく鼻歌を歌いながら手をつないで出ていく二人。思わず脱力する観客。と、突然車が走ってきて、二人を跳ねて、映画は終わり。取って付けたような結末のあっけなさもあり、見終わるとグッタリとくる本作は、お色気とサイケ感覚にあふれた女サイコ映画の絶品でした。というわけで、サイコを演じる女優は、脱いで暴れてゲタゲタと笑いましょう。ストーカーを演じる雛形あきこには、特に見習ってほしいっす。


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