−ケビン・コナー『恐竜の島』−

 70年代、『恐竜の島』『続・恐竜の島』『地底王国』『アトランティス7つの海底都市』といった怪獣映画を撮り続けたケビン・コナー監督は、生粋のイギリス人だった。ただの怪獣オタクだった訳ではない。後年の、数十年前に沈没した船の中に生存者が社会を構成していたという『豪華客船ゴライアス号の奇跡』など海洋冒険小説のような物語だし、、人肉ソーセージを作る兄と保安官の弟が電動ノコギリでチャンバラする『地獄のモーテル』など、姫と王侯騎士ものへのオマージュがあふれている。ケビン・コスナーにとってカネと妾と名声が大切なように、ケビン・コナーには古典的な冒険談が大切で、だからこそそれ以外のものにはあきれるほど無頓着だったのである。ある意味で、コナーにとって怪獣は余計だったのかもしれない。

 75年の『恐竜の島』。原作は、『ターザン』シリーズを除くと、ほとんど映画化作品の無いエドガー・ライス・バロウズの『時に忘れられた世界』。第一次世界大戦中、自分の乗っていた船を撃沈したUボートを乗っ取ったタイラー(ダグ・マクルーア)達は、地図にない孤島・カプローナにたどり着く。彼等はカプローナからの脱出を図るが、折りから起こった火山の爆発によりUボートは沈没、瓶入りの手紙を海に流す……って、けっこう面白そうでしょ? 実際浮上したUボートの左舷の海面に突如頭を突き出したディプロドカスに乗組員が喰い殺される場面なんかはけっこういいんだけど、あとがダメ。画面にはプテラノドン、トリケラトプス、スティラコサウルス、ノトサウルスなどが登場するけれど、そのほとんどがライフル銃で射殺される。ちと弱すぎないか? ディプロドカスなぞ、射殺された後、夕食にされてしまうし。ちなみに出てくる恐竜達は、全て実物大のモデルか、ぬいぐるみか、機械仕掛けの人形。ほとんど遊園地の見せ物レベルの情けない出来だった。

 ただ、この作品はけっこうヒットしたようで、76年には、やはりバロウズの『ペルシダー』シリーズを映画化した『地底王国』が製作された。本作は、金持ちのイネス(ダグ)とペリー博士(ピーター・カッシング)が鉄モグラで地底探検に出発。地底世界ペルシダーにたどり着く。そこは巨大な鳥族によって人間が支配される世界であり、イネスはそこで地底人の女ディア(キャロライン・マンロー)とよろしくやりながら、オウム怪獣、カバ怪獣といった、モタモタ動く怪獣に遭遇する。とにかく登場する怪獣は動きはヘタだし、造型は悪い。マンローちゃんめがけて火を吹き出す四つ足怪獣なぞ、大きく開けた口の中に火を出すノズルが見えているうえ、カッシングの矢を数本受けたら、ひっくり返って崖下に落下、大爆発するという、いい加減な扱いだった。

 77年の『続恐竜の島』に至っては、もう恐竜なぞ無くてもいい扱い。タイラー救出に向かった友人ベン(パトリック・ウェイン)らの活躍にまぎれて、前作の実物大プテラノドンや、プロペラを壊されて不時着した飛行機を引かせられるステゴサウルスが登場するぐらいで、完全に添え物。ところがグラマー女原始人に遭遇し、戦国時代の日本の鎧兜に身を固めたナーガ族が出てくる当たりから俄然話は盛り上がっていくのだが……。彼等の巣窟に幽閉されていたタイラーを救出したベン達は必死の逃亡を図る。そしてそこに登場する恐竜がまたひどかった。洞窟に逃げ込んだ彼等の前に、通路の左右の穴から等身大の首長竜が何匹も顔を突き出して、ベン達を待ち受ける。おまえはお化け屋敷か! 必死に避けて通った一行に次に襲いかかるのは、全長3メートル程の巨体を滑らせて襲って来る鎧竜! おまえはたけし城か!

 この頃になるとコナーもかなり達者な演出を見せるようになり、特撮が貧弱という難点を除けば、けっこう作品的には水準以上の出来映えを見せていた。バロウズの原作が良いからだという意見もあると思うが、実はコナーの最高傑作は、78年のオリジナル『アトランティス7つの海底都市』である。火星から地球へやって来たアトランティスの都市がバミューダ海深海にあり、その支配下の大ダコやタートル・スネークによって、付近を航行する船が襲われて、地上の人間がアトランティス人の労働力として誘拐されていたという物語も凄いが、ここに登場する怪獣達もユニーク。前述の怪獣のほか、アトランティスが地球に飛来した際の放射能で巨大化したという、沼から突如出現するヤスデ怪獣モグダン、城壁をひたすら登ってくるフジツボ怪獣ザルグなど、従来よりも造型が良くなったぬいぐるみ怪獣達も魅力的だったが、秘境冒険ものとしても、インディ・ジョーンズなんぞより、よっぽどワクワクして観れた覚えがある。『ウォーターワールド』だって、ケビン・コナー監督だったら面白かったと思うぞ(←しつこいって)。


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