−ラリー・ブキャナン『金星怪人ゾンターの襲撃』−

 映画も百年を過ぎ、評判の作品とかを観に行ってみると、必ずどこかで観たような部分がある。まあ、毎年何千何万本も新作が製作されるのだから、完璧にオリジナルな作品を撮る事は難しい。ティム・バートンのように幼児体験の反復を追求し続ける監督もいれば、レニー・ハーリンのように続編映画でのし上がった監督もいる。ただ、彼等にはそれなりの才能があった。有名なSF映画のリメイクを撮り続け、しかもそのことごとくが駄作であったばかりに、名前を残してしまった男−−それがラリー・ブキャナンである。

 孤児院で育ったブキャナンは映画監督のほとんどと同じように、映画会社(20世紀フォックス)の小道具係に18歳の時に就職、俳優などもして映画製作の機会をうかがい、十年後の1952年、『APache Gold』でデビューする。しかしここで彼の映画人生に誌面を割く事は、趣旨に外れる。本稿の趣旨は、彼の怪獣映画についてである。というわけで、時代を60年代後半に飛ばす。

 50年代半ばから60年代半ばまで、若者向けのB級SF/ホラー/アクション映画でヒットを飛ばし続けたAIPも、TVの登場と映画興行の衰退に対応する為、様々な経営方針を打ち出す。その一つがTV部門への進出であり、そこで怪獣TV映画を濫……多作したのがブキャナンだった。そしてそのほとんどが、とにかく昔のAIPの映画のリメイクだったのである。

 例えば、66年『金星怪人ゾンターの襲撃(Zontar,The Thing from Venus)』は、56年『金星人地球を征服』のリメイクである。地球の科学者に呼ばれて飛来した金星人が、付近の人間の精神を支配して地球侵略を企てるという物語が、そのまんまリメイクされている。オリジナルはストーリーより、ポール・ブライズデルの製作した通称金星ガニのカルト的な人気に支えられている作品だが、それが不恰好な三つ目のコウモリ怪人に変更された映画に何がある? あなた、ゴジラの代わりにミニラ主演の怪獣映画を観たいと思います?

 ところがブキャナンは、怪獣のキャラクターが魅力的だった映画を,明らかにセンスの無いデザインの怪獣に置き換えたリメイク作品を次々と撮り続けている。65年『The Eye Creatures』『暗闇の悪魔』、66年『原子怪人の復讐(Year 2889)』『原子怪獣と裸女』、、66年『呪いの沼(Curse of the Swamp Creature)』『恐怖のワニ人間』、67年『Creature of Destruction』『海獣の霊を呼ぶ女』のリメイク。これらに全て目玉にピンポン玉をくっつけた、カッコ悪い出目金半魚人のぬいぐるみが登場。こいつがワニ人間やら太古の怪物やら、とにかく色んな設定で登場、色を塗り替えたり目玉を取っただけの姿でしつこく登場する。これらのTV作品は製作費4万ドル前後で製作されたとのことで、ぬいぐるみのみならず、役者もジョン・エイガーかビル・サーマンが延々と登場。はい、まとめ撮りですね。映画人の鏡ですね。でも、予算だけの問題ではないですね、彼の場合は。

 ブキャナンは本当にリメイク作品が好きで、66年『火星人大来襲(Mars needs Women)』は、やはりAIPの『Pajama Party』(欽ちゃんじゃないよ)をリメイクした作品。しかしこの作品は火星人が地球の女に惚れるというミュージカルの典型的な馬鹿映画を、何をトチ狂ったか、真面目な侵略SF映画として製作。米軍の防衛網を突破したブラックデビルみたいな火星人が地球にやって来て、ガソリンスタンドの店員を殴って金と服を強奪(……)。染色体異常で出生率の低下した火星女の代わりをと、地球の女を誘拐しようとするのだが、狙う女達はテニスギャル、ストリッパー、スチュワーデス……イメクラかおまえは!

 しかし、ブキャナンがただのリメイク専門屋でない事を証明する為に、彼のオリジナル作品についても触れよう。

 79年の『Mistress of the Apes』は、行方不明の夫を探しにアフリカに行った女が類人猿一族に遭遇、そこの女王に祭り上げられるミュージカル映画。……果たして、あなたは内容が想像できますか? 82年には、ネス湖のネッシーを描いた『怒りの湖底怪獣・ネッシーの大逆襲(The Loch Ness Horror)』を発表。例によって実物大のネッシーの頭部が出て、セコセコと大暴れするが、その学芸会の大道具みたいなネッシー(本人は「いい怪物だよ。ETよりもね」などと寝言を言っているが……)と退屈な演出は、さすがブキャナン。これを観ると、東映の『恐竜・怪鳥の伝説』なんて、大傑作である。ただオリジナルと述べたが、作品自体は、東宝・英ハマーの潰れた共同企画『ネッシー』を当て込んで作ったような感じがしないでもない。ブキャナンには、『俺たちに明日はない』が公開された67年の翌年に、『The Other Side of Bonnie and Clyde』を製作した前科もあるし……。ああ、フォローになっていない。

 しかしこのブキャナン、最大の問題は「マリリン・モンローは生きている!」といった妙な説を主張する映画を発表し続けている事だ。アメリカの大衆紙ではよく「プレスリーは生きていた」といった馬鹿記事が未だ見かけられるが、そんなネタで『Goodbye,Norma Jean』(76年)『Goodnight,Sweet Marilyn』(88年)といった劇映画まで公開するのだから、やはりタダ者ではない。リメイク、パクリ、トンデモ映画……。ブキャナンの映画人生、これこそが最大の怪物なのかもしれない……ただしピンポン玉の。

 


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