−『メガフォース』−

 82年の正月番組で、世界中のスターを集めて船頭多くして大山鳴動した作品『キヤノンボール』で、『レイダース 失われた聖櫃』を上回る配給収入(二十億円)を日本で稼ぎ出した、レイモンド・チョウとアルバート・S・ラディ(プロデュース)、ハル・ニーダム(監督)、東宝東和(配給宣伝)のゴールデンカルテットが集結した、同年の夏の目玉作品たる大作が『メガフォース』である。

 製作費は87億円(自称)! ポスターには全長20メートルはある巨大な指令車「タック・コム」、戦闘バギー「メガ=クルーザー」、ミサイルを搭載したバイク「モト=デストロイヤー」が何十台も砂煙を上げて疾走し、その背後に落下傘部隊をバラまく巨大な輸送機が何機も飛んでいるというカッコ良いイラストに「いま映画は、"バイオニック・アクション"−空前のメカに、人間の心《闘争心》を植えつけた映画−の時代を迎えた」という意味不明のコピー(観客の暴動は予想済みという事か?)。さらに、連日連夜のCMでは、内海賢治の野太い声でスタッフ・キャストや製作費を畳みかけるように説明し、最後に「悪いことをすると、メガフォースが来るぞ〜」などと、ニヒルかつ優しい口調でヤング狙いの宣伝を展開した。

「各国首脳は否定しているが、メガフォースの存在は明らかだ……」

 矢追純一的論理のナレーションの後、映画が始まる。物語は、南アフリカの小国を攻撃する傭兵グエラ(ヘンリー・シルバ)率いる戦車隊を叩き潰すために、自由主義国が作った無国籍の軍隊メガフォース(元祖『沈黙の艦隊』)が出動を要請されるというもの。

 このメガフォース、登場早々派手なアクションを見せる。モト=デストロイヤーにまたがった、メガフォース隊長エース・ハンター(バリー・ボストウィック)以下精鋭3人が登場するやいなや、空中へ舞い上がる風船の山に、ウィリー走行をしながら機関銃とミサイルをぶち込む! 次々とスローモーションで割れる風船! カウボーイ姿の戦士(ウォリアーズ)ダラス(マイケル・ベック)が「あの訓練は見せ物じゃないんだ」と説明するほど、サーカスにしか見えない偽装訓練ぶりが徹底している。

 そして最新鋭の超科学兵器に身を固めたメガフォースは、1950年代以来のオンボロ輸送機ハーキュリーズで空へ旅立つ。これについては、増淵健先生がパンフレットで「新しいものがいいとは限らないという文明批評になっている」と、心温まるフォロー。

 夜、目標地点に着いた輸送機から、タック・コムやモト=デストロイヤーに乗ったメガフォース総勢約60人が落下傘で降下する……と思いきや、釣り糸の見える真っ黒なミニチュア落下傘が大量に降下、照明を落としたスタジオ内にメガフォースが次々と着地、敵基地を攻撃。発射されたミサイルは、上空を通り抜けただけで下の敵戦車を大爆発させ、合成丸見えのレーザーがセットの建物を大爆破。失礼。当時の宣材によれば「レーザー、爆弾、ロケット砲は実弾を使用」とあるから、本作は本物のレーザー兵器が使用されているらしい。リアルだなぁ。リアルといえばタック・コム。先ほど全長20メートルほどと書いたが、映画ではどう見ても全長6メートル程度しかない。やはり指令を下す中心的存在は大きくなければという、金日成方式の柔軟な思想のポスター画家には、脱帽するのみ。

 しかし迎えの輸送機が着陸できる干潟には、グエラの戦車隊が先回りしていた。メガフォースは消音エンジン(!)を駆使して敵戦車隊の背後から一列横隊で斜面を疾走し、奇襲攻撃をかける。次々と発射されるミサイルの群。戦車隊は炎上、爆発、大混乱。そこを通り抜けたメガフォースは、一路輸送機へ。戦車隊の砲火が、輸送機に集中する。

 そうはさせじと、突然メガフォースのあらゆる乗り物から煙が吹き出る。モト=デストロイヤーなぞ、ドライバーの姿が隠れるぐらいの猛噴煙。空撮で捉えられた、何十台もの車とバイクが赤、青、黄、白のカラフルな煙幕を吐きながら、一列横隊で平原を突っ切るのを様は感動もの。メカニックとアクションシーンには75億円(自称)が投入されたというのも、頷かなければなるまい。

 しかし予定時刻を過ぎて飛び立った輸送機の中に、エース隊長の姿は無い。動揺する隊員たち。そこへ一人遅れてモト=デストロイヤーで走ってきたエース。慌てず騒がず、ハンドルの両端の二つのボタンをプッシュ。

「ワン! ツー!」

 あっという間に隊長のバイクから翼が飛び出て、後ろのジェットエンジンが火を噴き、突然合成見え見えのリアプロジェクション(天気図の前で福井敏夫さんがしゃべるアレ)の中で、宙づりになったバイクが空へ飛び上がる! ちなみに特殊効果担当は『スーパーマン』でオスカーを取ったゾーラン・ペリシック。しつこく言うが、75億円。見事輸送機に搭乗したエースは、 「正義は勝つのさ。80年代でも」 と言い捨て、707(誰?)の脳天気な主題歌が流れるなか、もう一度空飛ぶバイクの場面が延々と流れて映画は終わるのだった。

 ちなみに宣伝材料の隊員手帳にはメガフォースのメカニックは「科学的には、今日でも可能な乗り物ともっぱらの評判を集めている」とのことで、ラディ氏は「いずれ、アメリカの軍関係に使われることだろう」と断言までする。映画人がここまで言い切れる作品なのだ、『メガフォース』という作品は。あなたは好きですか? 私は大好きです。90年代でも。  


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