−『スパイダーマン』−

 仕事と恋人に悩み、己の存在意義を失って放浪するなど、異様に受難の多いヒーローであるスパイダーマンを翻案、東映が東京12チャンネルと組んで製作したTVシリーズ『スパイダーマン』は、スパイダーマン本来の陰性と東映のエログロセンス、特撮・アニメ番組で主人公の親族を殺してヒーローを怨念の中に突き落とす設定を執拗に書き続けた上原正三の脚本がマッチした異様な作品だった。

 主人公の山城拓也は世界侵略を企む鉄十字団に父を殺され、さらに毒蜘蛛だらけの洞窟に落とされ、そこに四百年前に彼らに幽閉された宇宙人ガリアに、「君は友だ」と言われてスパイダー能力と巨大ロボット・レオパルドン(飛行形態名・マーベラー)を半ば強制的に遺され、鉄十字団と戦うハメになる。

 まず、役者が濃い。鉄十字団の首領モンスター教授は、プロフェッサー・ギルこと安藤三男。その手下の女幹部アマゾネスに、賀川雪絵。賀川は、網タイツに黒いコスチュームという女王様ルックス(後半は赤毛のカツラに銀色のミニスカ)に、『怪談蛇女』『恐怖女子高校』『恐怖奇形人間』と、東映エログロ路線で鍛えたキツい容貌、「やっておしまい!」というようなスケバンそのものの張り詰めた演技、そしてその無惨な最後(モンスター教授に疎んじられ、地球脱出用ロケットの席を望み、叶わぬと知るやロケットを奪って爆死する)が印象的で、一時期子供達に、悪役ながら「かわいそうなアマゾネスのお姉さん」として認知され、例えば池玲子や杉本美樹を知らない20代のヤングでも、主演格でない賀川雪絵の顔だけは知っているという、妙な現象を一部で生み出すことになる。

 ドラマも、妻を殺した怪人を探して口がきけなくなった子供を連れ歩く麻薬捜査官とか、最強を目指して鉄十字団に改造されてしまったレスラー兄弟の話とか、悲哀に満ちた話が相次ぎ、陰々滅々とした(カッコいい)主題歌と共に、異様な雰囲気を醸し出していた。

 特撮もスパイダーマンがビルの壁や東京タワーを登るわ、多彩なロープアクションが多用されるわ、本家アメリカのTV作品より面白い。……のだが、毎回のお約束となった戦闘シーンの最後、突如怪人が巨大化、スパイダーマンがロボットに乗り込んで戦う場面は情けない。一部を除いて必ずスパイダーマンが「マーベラー〜!」(乗り込む)「マーベラー、チェ〜ンジ、レオパルドン!」(ロボットに変形)「レオパルドン、ソードビッカー!」(剣が飛んで入って怪人と共に大爆発)と叫んで終わりという、意欲の無いその後の東映特撮番組特有のルーチンワークが続き、最終回、突如巨大化したモンスター教授との決戦で、「最終回ぐらい盛り上がるんだろうな」と注視する筆者の前で、「マーベラー〜!」(以下略)……。数十秒の戦闘でケリが付いてしまった虚脱感の後、「俺はモンスター教授を倒したんだーっ!」と海辺で叫ぶ主人公の姿は、もはや蛇足以外の何物でもなかった。


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