−『愛の戦士 レインボーマン』−

『愛の戦士レインボーマン』(72年・NET)といえば、川内康範である。角田喜久男ではない(←それは『虹男』)。

 川内康範が送り出したヒーローは多々あるが、『月光仮面』『七色仮面』といった昭和30年代の主流であった探偵もの作品では目立たなかったものの、昭和40年代の『愛の戦士レインボーマン』『正義のシンボル コンドールマン』『ダイヤモンドアイ』といった作品になると、子供向け番組としては異様なほど悪役が現実的な存在になり、公害を垂れ流すモンスターだの、商社の姿を使って砂糖や肉を買い占めるモンスターだの、悪の親玉がニューヨークの高層ビルに事務所を構えているだの、何やら社会的な様相を呈してくる。そう、彼等に立ち向かう川内ヒーロー達は、世直しの為に立ち上がった、正しき日本男児の姿なのだ! いいぞ、川谷拓三!(←それは『河内のオッサンの唄』)

 なかでも飛び抜けた存在なのが、『愛の戦士レインボーマン』だ。東宝が製作しただけあって、特撮は円谷英二の愛弟子有川貞昌が担当、さらにゴジラこそ出てこないものの、『世界大戦争』『緯度0大作戦』といった作品の芸術的な特撮場面がふんだんに使われているうえ、出演陣も東宝のあの人が!という俳優がボコボコ出演している豪華さ。

 主人公のヤマトタケシ(水谷邦久)は父親を死ね死ね団に拉致され、母親と身障の妹を抱え、恋人の父が経営する孤児院はヤクザ(藤木悠)に脅されている。得意のレスリング技術をさらに向上させようと、インドの伝説の仙人ダイバダッタに弟子入りしたタケシは、水中に何十分も潜らされたり、焚き火の上を走らされたりといった修行を積まされた挙げ句、いつの間にか人類愛という大乗仏教的な思想を植え込まれ、日月火水木金土の七種類の化身に変身できるレインボーマンとして、日本人絶滅を図る死ね死ね団と戦うハメになるのだ。

 その死ね死ね団の登場が凄い。「レスリングショウの為の強い日本人を捜している」という怪しげな男の勧めと高額のファイトマネーにつられて、タケシはマカオに出かける。マカオの街には日本の建物と日本人しか見当たらないというのは、この際どうでもいい。そこでタケシは死ね死ね団の取り巻く地下室の鉄の檻に入れられ、キャッツアイという人間を狂暴化・発狂させ、死に至らしめる薬品を飲まされて狂暴化した黒人レスラーと戦わされ、初めて死ね死ね団とその首領ミスターK(平田昭彦)と遭遇する。このミスターK、漫画では白人で太平洋戦争勃発時に日本にいた為、スパイ容疑で憲兵に拷問され、留守中に民衆によって妻子を惨殺されたという設定になっているのだが、それ故日本人への憎悪はダンディながらどぎつく、「黄色いドブネズミどもを一人残らず抹殺するのだ」「黄色いブタを射止めるんだ!」「諸君は大いにがんばって、バンバン殺したまえ」「百人殺すまでは私の前に顔を出すな!」などと楽しげに発言する。さらに「♪死ね、死ね、死ね死ね死ね死ね、死んじまえ、黄色いブタどもやっつけろ……日本人は邪魔っけだ、黄色い日本ぶっつぶせ……世界の地図から消しちまえ……黄色い猿めをやっつけろ……地球の外へ放り出せ」という、「死ね」という言葉を百回近く繰り返す死ね死ね団のテーマソングがかかるので、一家団欒の7時半のTV番組を観ていたお茶の間の親子は、さぞかし凍りついたことだろう。

 ついでに言うと、この死ね死ね団、幹部は女ばかりで、その名前もオルガとかロリータとか淫靡なら、ミスターKもそのオルガと鴨川のホテルに二人っきりで出張して「パパ」と呼ばせたりして、ちょっと大人の世界。ちなみに意味も無くツルッパゲ頭にカツラを着けている女幹部の一人キャシーは、タケシの妹みゆきを拷問する時にローソクのロウを太ももに垂らして喜んでたなあ。ミスターK、どういう仕込みをしているのか。

 タケシは日本に帰国して死ね死ね団の危機を訴えるが、誰も信じてくれない。しかし死ね死ね団は、日本人にキャッツアイを飲ませるために、屋台のおでん屋を開いたり、公園でホホホ笑いを浮かべて「ヨーロッパ直輸入の美容ドリンク・プリティ」とやらの試飲会を開いたり、あの手この手で日本人にキャッツアイを飲ませまくり、自殺者が続出。そしてついにタケシもキャッツアイを飲ませられてしまう。タケシは街中でアーハーハーと笑い、通行人の女の子に「母ちゃん」と言って抱きつき、ビルの屋上に上って「おーい、みんなー、魚は釣れたかー」と吼えまくり、死ね死ね団の息がかかった精神病院の特別病棟に叩き込まれてしまう。

女幹部ダイアナ「タケシが完全に狂うのを確かめる」

医者「ご安心ください。こいつももうすぐ気狂いの仲間入りですよ」

他の鉄格子の患者たち「アハハハハ」

タケシ「みんな狂っている!」

ダイアナ「タケシはまだ完全な狂人じゃないわよ」

 かくしてタケシは頭に電流を流される(第9話「タケシを狂わせろ」)。そして他の患者達のいる鉄格子の中にぶち込まれ、他の患者の玩具にされるのだが、ヨガの眠りによって体力と正気を取り戻し、レインボーマンに変身! 見事敵のキャッツアイ作戦を撃滅する。

 しかし死ね死ね団は次なる作戦、大量の偽札を新興宗教「御多福会」を通してバラ撒き、インフレを引き起こすM作戦を開始。それと共に魔女イグアナ(塩沢とき)が来日。イグアナはタケシの父一郎(小泉博)の友人を人間爆弾にして吹っ飛ばし、配下の毒殺プロ・フドラ、火でも毒でも吐く人間ポンプ・ガルマといった殺人プロフェッショナルをレインボーマンに差し向けるのだが、どいつもこいつもオガワゴムみたいなマスクをかぶっただけの、ロジャー・コーマンの作品でも滅多にお目にかかれない怪人ばかり。ところがタケシはようやく素顔のままで出て来たヘロデニア三世(江見俊太郎)に破れ、東京近郊の隠れ里に迷い込んでしまう。ここは南朝の貴族の末裔が住んでおり、「若」と呼ばれる少年が金色のチャンチャンコ姿で遊んでいる。しかし死ね死ね団によって村人が殺され、タケシは涙ながらに「若様の力になります」と言い、村人達と共に村外れにある死ね死ね団の偽札倉庫に向かう。次々と殺される南朝貴族の末裔達! しかしレインボーマンはついに倉庫に侵入、御多福会の女幹部と対峙する! 行け、レインボーマン! 南朝の敵を叩き潰せ! 両統迭立万歳!

女幹部「私は御多福の女王、クイーンよ! 頭が高いわ!」

レインボーマン「おまえに礼を尽くす必要は無い! これでおまえ達の企みもすべてはっきりしたぞ!」

女幹部「おまえがたった一人でいくらがんばっても、私たちの強大な力に勝てっこないわ!」

 南朝貴族の末裔達を迫害した組織の女幹部(正体は金髪の外人だった!)をレインボーマンは倒し、偽札倉庫を破壊する。しかし物価は200倍にも跳ね上がり、打ち壊しと一家心中が全国に続発、レインボーマンは国会議事堂に出向いて大臣に食料の無償配給を直訴、魔女イグアナを倒しM作戦を阻止するが、再会した父親は殺されてしまう。

 しかし死ね死ね団はさらに地底戦車モグラートや大津波による破壊工作を行ったり、外国の重要人物を次々と殺害して日本の孤立化を図ったり、次第に表立った作戦を行うようになる。さらに対レインボーマン作戦として、悪魔武装戦隊DACや新たな殺し屋を投入、かなわぬと見るや各女幹部をサイボーグに改造。さらに娘イグアナの仇を狙うゴッドイグアナ(曽我町子)も混じってレインボーマンと三つ巴の闘いが繰り広げられる。

 最終回、死ね死ね団のミサイルによって日本全土が爆撃されて死者が続出、レインボーマンは死ね死ね団の本部に乗り込むが捕らえられ、国立競技場のど真ん中に設置された刑架に磔にされる。しかし銃殺直前に七色の光が降り注ぎ、レインボーマンは宇宙へと運ばれる。なんと宇宙には、師匠ダイバダッタの姿が! 地球に戻ったレインボーマンはミサイル基地を破壊するが、死ね死ね団のサイボーグ軍団に取り囲まれる! そのサイボーグたるや、黒い長ズボンに裸の上半身にサイケなボディペインティングをした若い男が二十数人! レインボーマンはこの史上稀に見る強そうなサイボーグ軍団をを倒すが、ミスターKは日本人抹殺の命令を繰り返すテープを残して姿を消す。国際会議場を襲撃した死ね死ね団の残党をレインボーマンは見事倒す! これからも続くであろう悪との闘いに闘志を燃やして立つレインボーマンのバックにさりげなく(←ないって)はためく巨大な日の丸の旗!

 つまり要約すると、日本人と黄色人種を蔑視し、日本の経済や食糧供給・国際的地位を悪化させようと企む白人の秘密結社がいる。そしてそれを倒せる正しき男は、仏教典で釈迦の大敵だったダイバダッタを見習い、節制と団結を唱え南朝を奉じる自己犠牲的な日本男児であるという物語なのであろう(……そうか?)。そう考えると、「ヤマトタケシの歌」で「♪どうせこの世に生まれたからにゃ、お金も欲しいさ、名も欲しい、自分の幸せ守りたい……恋もしたいさ、遊びたい」などと悲しげに歌われているのは、現代版「欲しがりません勝つまでは」といえよう(……そうかあ?)。つまり、レインボーマンは、失われた日本人の美徳の象徴なのだ。

 ちなみにこのレインボーマン、『月光仮面』と同様に、アニメでリメイクされている。その『レインボーマン』(83年・毎日放送)は、ハカイダーもどきのデザインのレインボーマンがガンダムもどきの巨大ロボット「Vアーマー」と合体して死ね死ね団のロボットと戦うというもので、東映版『スパイダーマン』と、連れの犬が二本足で歩いて人語を話し、角さんが力だすきで突然百人力になり、50メートルはある巨大な鬼や隠れ里のくの一と水戸黄門が戦う『まんが水戸黄門』を足して1兆度の火の玉で割ったようなイカれた作品だった。


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