−『妖怪伝・猫目小僧』−

 チョーン、チョーン、チョン。紙芝居の時間だよ〜、さあ今日は童心に帰ろう、TVもビデオも忘れて紙芝居を楽しもうね。何? 『鞍馬天狗』はいやだ? 『黄金バット』は? アニメの方がいい? 佐藤肇監督を呼べ? 藤岡琢也の黄金バットを観たい? みんなわがままだなぁ。仕方ない、若い人の意見を尊重して、ほらね、ちゃーんとTV型の紙芝居を用意したよ。何ね、まだまだ映画だのTVだのいったって、紙芝居と大差ない作品はあるんだからね。

 とりあえず、大島渚監督の『忍者武芸帳』(67年・創造社)はどうだい? 白土三平の漫画の原画を延々131分映しているだけの作品だけどね。……小沢昭一、山本圭、渡辺文雄の声も聞けるよ……いやだ? それじゃ、TVでやってた作品にしようか。『ゴルゴ13』のTV番組はどうだい? さいとう・たかをの漫画が、ほら、ちゃんと効果音付きで延々と……。え? だから漫画の原画を延々映す作品はやめろ? 『ドカベン』だって、アニメでも静止画ばっかりで、似たようなもんじゃないか、ねぇ? 『AM3:00の恐怖』(フジテレビ)は? こっちは漫画じゃなくて、ベルメールみたいな陰鬱な写真を延々映して怪奇ストーリーをナレーションしていく、円谷プロ製作の5分間番組だけど……漫画でなきゃいや?

 よし、それじゃこれだ。『妖怪伝・猫目小僧』(76年・東京12チャンネル)。こいつは凄いぞ。原作は楳図かずお、製作はあの『合身戦隊メカンダーロボ』の和光プロ。総監督は新東宝・東映東京を経て、TV『忍者部隊月光』『マグマ大使』『無用之介』などを手がけた土屋啓之助。

 いや、この際スタッフは置いとこう。この絵を見てちょうだい。え、そこの人、見えない? じゃ、想像してね。水彩画で山間のさびれた村の風景があるわな。そこに猫目小僧が登場。え? 結局紙芝居じゃないかって? それはNHKの民話の番組でしょ。こっちは劇画とアニメーションの合体「ゲキメーション」なんだから、凄いぞ。例えば土砂崩れの場面では、崖の絵の上に本物の土がザラーッと落ちていく。洪水が起これば河の絵の上をドライアイスの煙がモワーッ。林間の怪しい沼があれば、林の絵の中に本物のピンク色の水が泡立つ。妖怪が登場すれば、眼の中で豆電球が光る、口の中は反射材が虹色に光るといった具合。しかもそのキャラクターが、固まったポーズのまま、ズンコズンコと歩いて来て、火炎攻撃を受けるとその絵に火が点いて燃え上がる! これは劇画がそのままアニメーションを通り越して実写になった、映像の革命的作品なのだ! 富士フィルム技術賞受賞はダテじゃないぞ!

 もともと本作の原作漫画は68年に書かれたもので、現代に蠢く妖怪や怪事件に猫目小僧が巻き込まれていくというものだったの。どこかしら人間臭さとペーソス漂う水木しげるの妖怪漫画と違い、楳図の作品はニヒリズムとフリークス趣味にあふれていて、原作の猫目小僧はちょっと斜に構えた奴で、イタズラやつまみ食いが大好き、性悪な奴が妖怪に襲われれば、ザマあみろと揶揄するような悪ガキね。敵妖怪も四肢が腕でできている出っ歯男とか両手が頭から生えた女とかの、あくまで人体をグロテスクに組み合わせた独特のデザインで、世の中の悪人を全部醜くしてしまおうとする奇形児が集まった妖怪百人会だとか、ガン細胞が実体化して腫瘍が人間の形をした肉玉とか、誠に爽快。

 もっともさすがにこのまま木曜夜7時のお茶の間タイムに流すのはまずいと判断したのか、本作は大幅に設定が変更されているんだ。まず時代は蒸気機関車・モンペ・茅葺き屋根が多数登場する(おそらく)昭和初期となり、毎回猫目小僧の顔を見て「ひえ〜」とたまげたお百姓さんが鍬や薪を持って猫目小僧を追っかけ回すという、おらが村の話になっちゃった。猫目小僧もイジメられてグスンと泣く気弱な少年になり(人間のみならず、妖怪にまで片輪呼ばわりされる)、原作では忘れ去られてしまった、猫又と結婚して猫目小僧を産んだ母親(どんな女だ。二次元人と結婚してミラーマンを産んだ女と同類か?)を捜して苦難の旅を続けるという、お涙頂戴ものになってしまったのさ。

 もっとも敵妖怪はずんべら・べったり・ゆさぶり坊主といった聞いたことのない妖怪ながら、性根の曲がった奴が少なくなくて、例えば「対決、怨念の地むぐり」の蛇妖怪地むぐりなぞ、先祖が蛇を殺したという理由で子孫の婆さんと少年の家に普通の蛇の姿で入り込み、少年に餌の蛙を乱獲させる。そして少年が蛙の呪いを受けて蛙少年になった途端に正体を現し、蛙少年と婆さんを喰い殺してしまうんだ。「なみだ婆と泣き男」に至っては、人を泣かすのが大好きななみだ婆と、人の涙をなめるのが大好きな泣き男(逆だったかもしれない)のコンビが登場。爺さんと年端も行かない孫娘を監禁、縛り上げた爺さんの前でなみだ婆が孫娘を痛めつけ、ヒィヒィと泣く少女の涙を泣き男が喜びながらなめ回すという、黄表紙真っ青の世界を繰り広げていたんだよ。

 しかも前述のゲキメーション方式なので、一枚一枚の絵は、本当に精細に描かれていて、いやあ、この気色悪さは数あるアニメ番組の中でも際立ってるね。もちろん、子供を亡くした母親妖怪と猫目小僧の交流とか、泣かせる話もけっこうあるけれどね。え? 猫目小僧はどうなったかって? もちろん最終回(第24話)「涙の再会」で、母親と巡り会ってハッピーエンドさ。  こんな作品のどこがいいって? さぁね。おじさんは子供の頃、爪で血が出るほど掻きたくなる皮膚病にかかってイジメられてね。差別されながらも、爪を使って引っ掻き攻撃をする猫目小僧と仮面ライダーアマゾンには思い入れがあって、十年ぐらい前にビデオソフトが出た時には、駆けずり回って全巻揃えたものさ。堀江美都子の歌だって歌えるよ。 ♪がんばれ、がんばれ、猫目くん……


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