−『新・大江戸捜査網』−

 みんな『太陽にほえろ!』は知ってるかぁ!(おぉー!) それじゃあ『太陽にほえろ!2』は知ってるかぁ!(……) 『Gメン'75』は知ってるかぁ!(おぉー!) それじゃあ『Gメン'82』は知ってるかぁ!(……)

 映画もTVもいずれも同じ、ヒット作が出てそれが終了しても、夢よもう一度とばかりに、製作者は懲りずに二番煎じを作る。それが海賊版ならいざ知らず、「本家」が作った二番煎じ作品は、「絶対にオリジナルのファンを納得させて、オリジナルを超える(オリジナルと違う)作品を作る」という、実に矛盾した切迫感があるため、えてして理解不能な作品を生み出すものである。 『大江戸捜査網』は松平定信配下の隠密同心達の活躍という、放映開始当時、単独の主人公ものが主流の時代劇の中で、複数主人公による集団捜査(それ故主人公が入れ替わっていく!)という斬新な内容の作品であった。

 出演者も、杉良太郎、里見浩太朗、松方弘樹と当時脂の乗り切ったスターを筆頭に、嵯川哲朗、梶芽衣子、志穂美悦子、安田道代と、続々と芸達者を投入、果ては映画化までされるという人気作となり、十数年以上続くヒット作となる。しかしやがて放映時間帯の土曜九時代は映画枠や二時間ドラマがひしめく激戦区となり、あえなく番組は終了してしまう。

 ところがその直後に開始された『新・大江戸捜査網』は、例によって「やめときゃいいのに」的なひどい内容であった。  主役の飛脚隠密・新十郎に当時『おしん』の夫を演じていただけという並木史朗、三枚目役の役者隠密・銀次に三浦浩一、町医者隠密・長庵に橋幸夫、芸者隠密・お紺に佳那晃子という布陣は、なんだか2時間ドラマの脇役を引っ掻き集めたみたいで、露骨な上げ底作品の印象が強い。

 それでも並木や三浦はまだいい方で、橋は腕に装着した金属製の手甲で刀を受け、拳で悪役を撲殺していくという時代劇に何のために呼ばれたのかというふがいないアクションでお茶を濁し、佳那に至っては悪役への「抹殺通達書」を敵屋敷に置いてくるだけで殺陣には参加しない隠密という無芸ぶり(裏番組で見せまくった豊乳の露出さえ無い)で、レギュラーで飯屋の夫婦を演じる松五郎(ガッツ石松)とお清(甲斐智枝美)の、『ザ・新撰組』を彷彿とさせるベタベタの掛け合いが目立つ、先輩の名を汚す出来となってしまったのである。

 当然番組の視聴率は伸びず、例によってアイキャッチを変えるとかの小手先の改変を続けた挙げ句、人目を集めりゃいいんだろとばかりに、無茶苦茶なエピソードが乱発される。

 その代表格が田原藩の藩士達が次々に斬り殺されるお話の「恐怖!妖女軍団」だ。  田原藩士と斬り合うミミ萩原(↑超ヘタクソな殺陣)を見て駆け付けた銀次の前に、立ちはだかる紅い般若の面を被った三人のくの一。次々とニーアタック、ボディスープレックス、ボンバーアタック、ジャンピングアタックを喰らって、口から大量の血をダラダラ垂らして、KO寸前の銀次が一言。

「何だこいつら!」

 彼女たちの正体は、十五年前に濡れ衣を着せられて切腹させられた父の無念を晴らそうとする娘・美津と、彼女が預けられていた乳母の住む忍びの里の根来衆くの一軍団であった(何も考えるなぁ!)。

 ミミ萩原が若侍姿や入浴姿を披露するのはまだしも、デビル雅美・ジャガー横田・立野紀代らが扮するくの一が手裏剣も煙幕も使わずにレスリング技を連発し、そのうえ顎とガタイのゴッツい容姿でしおらしい町娘姿を見せるに至っては、正直腰が抜ける思いであった。もっとも、これはまだゲストとしてきっちりと出演しているから良い方である。

 「花と嵐と鉄拳一家」に至っては、盗賊におののく江戸を守ろうと「町のワルどもを俺達の手でやっつけるんだ!」とばかりに、ガッツ石松が強力なメンバーをを掻き集める。騒ぎを聞いて飯屋から慌てて飛び出した隠密達の前に、ファンファーレの音と共に横一列で歩いてくる五人の男達。

銀次「松っつぁん、牢破りでも連れてきたのかよう」

 いかつい男達は、それぞれステップを踏んだりビュッビュッと空を鳴らすジャブを振り回しながら自己紹介する。

輪島功一「さるとびの功一郎!」

柴田国明「情けの国造!」

具志堅用高「ハブの高助!」

白井義男「仏の義助!」(以上、名前は台詞から推測した当て字)

 それに松五郎を合わせた「鉄拳一家」が、突如起こった喧嘩騒ぎに吹っ飛んでいくのを見送りながら、銀次が手に持っていた茶碗を箸で叩く。

カーン!

 ゴング音の後、チョンマゲ姿のままボクシングで鉄拳一家が町のチンピラを殴り倒して行くという卒倒ものの場面が続くのだが、彼等はストーリーとは何の絡みも無く、後は事件が解決した後にちらっと出てきて、

新十郎「そろそろ一家は解散した方がいいんじゃねぇのか」

松五郎「俺もそう思ったんだ」

 の一言で消えてしまうという『ブルース・リー/死亡の塔』以下の詐欺的展開を見せ、その後も本作はイロモノ路線をひた走っていく。まあ、橋爪淳と中村あずさの不倫騒動以外は見るべき所の無かった『大江戸捜査網』よりはオモシロいことは確かだけれど。

 当然の帰結として番組は半年で終了するのだが、そのあまりに早期の打ち切りに一部出演者が激怒、打ち上げパーティで脚本家を袋叩きにするという不祥事まで起きてたらしい。

 最後にテレビ東京さんにお願い。どうせやるなら、下手な新作より『隠密同心大集合』を作って! 美空ひばりの葉隠れお雪をもう一度見たい!


Back to A-Room

Back to HOME