−地上最強のカラテ、くまさんに出会う−

 三協映画のカラテ映画といえば、三強の映画でもある。というのも、空手界の巨星大山倍達、劇画界の虚勢もとい巨星・梶原一騎、その弟で前二者の折衷ともいえる真樹日佐夫が、監修・構成・製作などの役割分担をして製作した映画がほとんどだったからである。

 とくに目立つのが大山で、そもそも牛と闘うのをわざわざフィルムに撮らせて彼の主唱する極真空手の宣伝に利用したのをきっかけに、梶原・つのだじろう(途中から影丸譲也)と組んだ劇画『空手バカ一代』、その映画化75年『けんか空手・極真拳』『同・極真無頼拳』、77年『空手バカ一代』と、同じ話を何度もしつこくメディアに露出させ(もちろん人気があった事も事実ではあるが)、己の勢力拡大もとい、空手の普及に力を注いできたのである。

 しかし上記の映画はいずれも、東映製作・山口和彦監督・千葉真一主演という日本映画最強のアクション映画製作陣というより、何でもかんでも自分達の色に塗り潰してしまう連中の手にかかってしまったため、『けんか空手・極真拳』で主役の千葉真一は、オカマの大家に言い寄られ、米軍に勤める処女の藤巻智八子(多岐川裕美)をパンパン扱いして強姦し(しかもその後、妻にする)、海辺で修行中唐突に現れた猛牛を殺し、ヤクザを殺し(正当防衛)、最後は自分をつけ狙う中曽根(成田三樹夫)率いる洗武館との決闘に赴き、中曽根を殺し、その弟子十数人を次々と殺傷してしまうのである。こんなバカを通り越してケダモノみたいな人間いるわきゃねーよ、と思うと、主役の名前はズバリ「大山倍達」なので、大山は何十人もの人間を殺傷した殺人鬼で、夫人(現未亡人)との馴れ初めは強姦したのがきっかけですと認めたわけである(絶対違ーう!)。おまけに予告編では大山倍達が道場で果たし状を受け取って表情をこわばらす場面の後「特別出演・大山倍達・梶原一騎」とクレジット、千葉真一が大山・梶原と対決する見せ場もある超豪華カラテ映画になるような宣伝をしておきながら、実際の大山と梶原の出演場面はタイトルバックで拳を振り回しているだけ(実測16秒)というロバート・アルトマンもあきれる大嘘をこきまくって公開したのである。さすがのマス・大山もそれに飽き足りなかったのか(違ーう!)、「本当の私の功績を教えてア・ゲ・ル」と思ったのか、もっと露骨な宣伝をしたかったのか、カラテブームの末期、極真空手のドキュメント映画の製作に乗り出すことになる。

 76年『地上最強のカラテ』は、75年に開かれた第一回オープントーナメント全世界空手選手権大会(もちろん主催は極真会館)に集った、世界35か国、128人の出場者の闘いを追っていくと共に、その練習風景と横顔、世界各地で極真空手を習う人間達の姿が紹介される。その練習(というより、デモンストレーション)が凄い。「カラテは、何の武器も持たずに素手で相手に立ち向かい身を守る術。武器を持たないというその発想は、平和を愛する心へとつながる」というナレーションが流れ、様々な荒技が繰り出される。大山による見事なビール瓶水平手刀割りに始まり、お馴染みの瓦割り、氷柱割り、板割り、石割り、スイカ割り、ブロック割り、真剣白刃取り、手裏剣投げ(これも「素手」か?)などが世界各地の会員によって行われる。映画を観ると、実に極真空手が日本人のみならずワールドワイドで、老若男女に受け入れられていることが喧伝されているが、気になったのがN.Y.の極真道場で若い娘が空手の型を見せる場面のナレーションだ。空手は「美容体操を思わせる単なる型のスポーツに変わりつつある」と言っている。なるほど、格闘技たる空手も、若い女性でも気軽にできるスポーツに……? 従来の空手を「空手ダンス」と批判して、実践空手としての「極真」をブチ上げたのはどこの誰だったっけ? 大会は、日本の佐藤勝昭選手の優勝で幕を閉じる。

 本作は予想を上回る興行成績を上げ、同年『地上最強のカラテPART2』が公開される(なんと音楽は佐藤勝である!)。例によって世界各地の極真空手を学ぶ人間達の姿と共に、頭で板に釘を打ち込む、炎燃ゆるリングを飛び抜ける、水に浮かぶ板を割るといった荒技が繰り広げられ、ナレーションも「極真ケンカ空手」という言葉を連発する。この硬派な雰囲気は……出た、ウイリー・B・ウイリアムス! アントニオ猪木とも闘った、極真空手の筆頭!

 ただの空手ドキュメンタリーでは地味だと思ったのか、今回は壮絶な目玉が用意された。ウイリーと身長2メートル45センチ、体重320sの人喰い熊との素手の一騎打ちだ! 牧場に解き放たれて、飼い慣らされたサーカスの熊のごとく、ちんちんをするように立ち上がっている人喰い熊。ウイリー、正面から正拳突き! 両手を伸ばしてウイリーに抱きつこうとする熊。肩を噛まれそうになって、逃げるウイリー。追ってくる熊に、ヘッドロックして、眉間にチョップし、熊から離れるウイリー。四つん這いになって、反対方向に歩き出す熊。横から首をつかみ、再度組み合う。仰向けに押し倒され、悲しげな呻き声をあげながら、何度も突きを入れられる熊の姿にストップモーションがかかり、ランニングをするウイリーの姿。「極真空手はウイリー・ウイリアムスによって、ついに熊を倒した」。えっ、熊がとどめを刺される瞬間は無いの? 寸止め空手を食らったような不満を残し、映画は終わる。

 その後三協は、カラテブームの過ぎ去った80年、第二回オープントーナメントを主軸にした『最強・最後のカラテ』、第三回を主軸にした85年『世界最強のカラテ・キョクシン』といったカラテドキュメンタリー、また、空手以外の格闘技スター、モハメッド・アリ、アントニオ猪木ら新日本プロレスと組んだ79年『格闘技世界一・四角いジャングル』、80年『格闘技オリンピック』を製作。78年、劇画『ワル』の原作者で知られる真樹日佐夫主演で、大山倍達&梶原一騎原作(普通は逆だ!)の『カラテ大戦争』(併映は『北京原人の逆襲』)といったドラマ作品も製作しているが、圧倒的にドキュメンタリーの印象が強い。しかし、それはそれで正しい。

 ブルース・リーに憧れても、彼の弟子になることは誰もできなかった。しかし自らメディアを通じて名を売り、日本を代表する「立志伝中の人物」「ホンモノの空手家」としてのイメージを日本人にアピールした大山倍達と極真会館が、娯楽やマネ事としてでない、ホンモノの空手を修得したいと思った少年達の欲求のはけ口を提供できたのは、ドキュメンタリー映画を使ったからこそとも言える。空手の本来持つスポーツとしての厳粛なストイックさを追求しつつも、ショーアップという軟弱なサービス精神を捨てられなかったドキュメンタリー。これが、三協の極真カラテ映画に与えられる評価ではないだろうか。


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