−『爆走デコトラ伝説』は新宿昭和館の夢を見るか−

 最近のTVゲームは30代に電波を送る、今のガキには理解不能なソフトがままあるのだが、その中で映画秘宝読者に是非ともご覧いただきたいのが、ヒューマンの「爆走デコトラ伝説〜男一匹夢街道〜」だ。何せこのゲーム、プレイヤーはデコトラを駆使して全国のトラック野郎と対決、恋と喧嘩に大暴れという、星桃次郎と'70年代の東映作品を愛する映画秘宝世代にとっては夢のゲームだ。

 ソフトを起動すると、いきなり雄大な富士山を背景にバーンと出る社名ロゴ(岩に砕ける波濤ではない)と勇壮な音楽。オープニングムービーも、エンジンを唸らせて爆走するトラックに、「旅は道づれ」と筆で大書きした字幕が乗り、もはや気分は新宿昭和館の客席である。

 まずは北海道から九州までの各地方のトラック野郎と高速でタイマンレースをする「全国制覇」モードだ。ここでプレイヤーはまっさらなトラックに乗り込む。トラックには名前を付けられるので、「九十九番星号」でも「女奴隷船号」でも「犬鍋仁義号」でもOKだ。各幹線道路には名うてのトラッカーが勝負を待っており、もみあげと眉毛の太いオヤジ「新太郎」、寡黙な「健」、眉毛の薄いオールバックの巨漢「辰夫」、ニヒルな美貌の「岩下」、紫に髪を染めた若い女の「静」、武者眉毛も麗しい「松方」、そして日本一のトラッカーである「文次郎」と相棒の「欽太」といった、どこかで見たような面々が勢揃い。湾岸道路や夜の高速を演歌をBGMに突っ走り、邪魔な一般車をはじき飛ばし、クラクション代わりに「どかんかボケ!」と怒鳴りながら、ライバルのデコトラとガスンガスンと激突してブロックし合い、ゴールを目指すのだ!

 見事レースに勝てばボーナスポイントが入るので、これを電飾付きのバンパーやランプ、アルミホイール、そして歌舞伎や竜の華麗なペイントと交換し、自分のトラックをどんどんデコレーションアップさせていく。

 文次郎を倒して日本一になったら、恋と笑いと喧嘩のストーリーモード「男の華道」だ。これはレースゲームに恋と喧嘩の物語がくっついたもので、三つのエピソードか用意されているが、断然面白いのが女優志望の娘のエピソードだ。主人公は欽太とレストランに入ったところ、見つけた席に先に座った娘を牝猫呼ばわりし、相手が背中に無数の星がきらめく美人だと知った瞬間、後を追っかける。途中で彼女を泣かす男を問答無用でぶん殴りトラックレース、ところが男が彼女の兄だと知るや卑屈に男のトラックをベタ褒め。そして娘が女優志望で東京のオーディションに向かうつもりだったのがもう時間がなくてあきらめようとしていると知るや、彼女をトラックに乗せてパトカー軍団を蹴散らして空港まで大爆走! この瞬間、君は子供の頃の憧れだった、カネも権威も体面も蹴倒した庶民の味方、桃次郎になれるのだ! 熱き魂を持つ男なら、すぐさまこのゲームを買え!


※ちなみにこの号では'70年代の映画を劇画化した作品を総括する原稿を書けと言われ、短い夏休みを潰して書き上げたところ、数週間後に「掲載は次号に送ります」。目眩がした。


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