−『SOAP』−

 米国で昼メロのことを、スポンサーが石鹸会社だったことからソープ・オペラと通称する事は有名な話だが、その存在自体をひたすら茶化しまくったのが、米国で放映された連続TVシリーズ「SOAP」である。

 ストーリーは、二人の中年姉妹、楽天家の姉ジェシカと神経質な妹メアリーを核にした連ドラだが、登場人物の設定が半端でない。

 メアリーのいるキャンベル家は、メアリーと結婚したはいいが、その前夫を事故死させた記憶に苛まされてインポになってしまったバート、マフィアの一員である長男ダニー、ホモで花形プロフットボール選手を恋人に持つ次男ジョディ(ビリー・クリスタル)が暮らし、さらにその後にバートの子供である、腹話術師人形ボブと漫才ばかりしているチャック、テニスコーチをして女を喰いまくり、ジェシカとコリーンの二人と関係を持つモテ男ピーターの二人と、マフィアのボスの娘で口汚くて性欲旺盛なエレーヌが、ダニーへの押しかけ女房として加わる。

 ジェシカのいるテート家は、未だ戦争が続いていると信じて、軍服に身を固めて隣家のガレージを爆破する父親の「少佐」、一見常識人のように見えながら浮気を繰り返す夫チェスター、堅物ながら国会議員と不倫している長女ユーニス、色情狂で町中の男をくわえ込む次女コリーン、女の子に興味津々のローティーンで、それ故に新興宗教にはめられてしまう長男ビリー、そして事あるごとにチェスターをイジメまくる黒人の執事ベンソンといった面々が勢揃い。

 こういった人物達が毎回のように不倫やインポや同性愛や妊娠といったセックスネタ、殺人、裁判、脱獄、誘拐、記憶喪失、精神病、脳障害、新興宗教による拉致といったシャレにならないネタが盛り込まれ、延々ドタバタドラマが展開されていく。

 例えばいがみ合うバートとダニーの、朝の台所での一戦。

ダニー「これは、あんたの頭」

 卵をグシャッと握り潰す。

バート「こりゃな、おまえの××」

 上向きに持ったバナナを、ナイフでスパッと切断してニカッと笑うバート。。バートとダニーはその後仲良くなって一緒に工務店を切り盛りするが、時々ダニーは変な提案をしてくる。

ダニー「ビルのてっぺんにある空き間を、貸し事務所にしようぜ」

バート「天井まで一メートルもないんだぞ」

ダニー「へっへっ、読みが甘いよ。コビトに貸す!」

 この手のネタでは、死刑囚と駆け落ちしたユーニスの潜伏先を訪れたベンソン達が、パトロールの警官の訪問を受け、隠れたユーニス達の分の二枚の皿について聞かれた時の会話がケッ作。ベンソン達は、慌てて双子が便所に行っているという。

警官「二人一緒に?」

ベンソン「くっついているの。シャム双生児」

 ここらへんのイエローカードネタは、ベンソンが自虐的に語る人種差別ネタも多い。朝食で自分にだけ黒焦げのトーストを出したベンソンに文句を言うチェスターに、「クロはきれいでいい色じゃないってワケ?」。殺人罪で告訴されてうろたえるジェシカには、「白人は死刑にならないの」。警官に職質を受けそうになると、「クロだと睨んでたんでしょ」。

 その他チェスターの嫌いな魚料理や高血圧を誘う卵料理やアルコールを努めて出し、家族が大喧嘩して部屋が汚れれば片付けを拒否して遁走、そのくせドイツ大使館や日本料理レストランに侵入して「捕虜」を捕まえて来る少佐に弾薬を供給し続けるなど、にこやかな笑顔で皮肉を言いまくるベンソンは本シリーズ一の人気キャラで、その後ホワイトハウスに舞台を移した「ミスター・ベンソン」というシリーズも製作されるが、それは余談。

 ベンソンがテート家の顔なら、キャンベル家の顔がチャックとボブ。日本語吹き替え版ではチャックの声を広川太一郎、ボブの声を肝付兼太が担当し、その掛け合いは絶品。ボブはメアリーのスカートを覗き、ピーターが殺されれば真犯人はバートだと毒づき、ドイツ人の私立探偵をゲシュタポ呼ばわりする。最初はチャックの腹話術をやめさせようと懸命だったキャンベル家だったが、そのあまりにも巧みな話術によってボブは次第に独立した人格として扱われるようになり、バート、ダニー、チャックと飲みに行った際にはボブは「吐く吐く〜」とわめき散らしてぶっ倒れ、他の三人はボブの周りから逃げ回った挙げ句,ボブに勘定を任せて帰ってしまう。

 これだけでも十分に怪しげなコメディなのだが,次第に作品は暴走を開始。

 コリーンは結婚後数ヶ月で子供を出産するが,その子供には悪魔が取り憑いており,全員十字架と聖書で身を固めてエクソシスト。かと思えばバートは田舎でUFOを目撃,証拠を探しているうちに再度現れたUFOに誘拐されて……と宇宙的展開をも見せるが、日本での放映はここで終了(2シーズン48話)。アメリカでは4シーズン93話が放映されたとのことで,どなたか続きを放送してくれませんかね。SFもオカルトも飲み込んで,鈴木則文的闇鍋娯楽を追求した本作は,登場人物全員がアホ!……そしてケッ作。


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