−はじめに−

 「もののけ姫」が興行収入100億円に迫る勢いを見せる'97年、ついに日本で製作される映画、いや日本の映画興行はアニメに生殺与奪権を握られたといって過言では無かろう。夏冬春のアニメ番組の手堅い興行に支えられた日本の映画会社は言うに及ばず、今や日本のアニメは海外に広く輸出され、その経済・文化的な影響は計り知れないものがある。クロサワやミフネを知らなくとも、ジャパニメーション、MANGAやOTAKUを知る海外の人間は多い。

 だが、それをもってしてアニメ映画が日本映画の頂点を極めたとは思えない。一部に優れた作品がある事は確かだが、それ以上にクズが多いのも事実だからだ。

 そもそもアニメの長所とは何か? それは、以下の点に集約できるだろう。

@製作費が安い

A老若男女、親しみやすい作風に仕上げられる

B作り手の思い通りのビジュアルを作れる。制約を受けない、実写では表現不可能なビジュアルも容易に作成できる

CAとBとも関連することだが、ビジネス化しやすいキャラクターを創造できる

D一定の固定ファンがいる

 この長所は、逆に言えばデメリットになりやすい。

@作品の粗製濫造を招きやすい

A一定の年代層に絞った作品が作りにくく、多様性が失われやすい

B演出や編集、物語性へのこだわりが減少する

Cロボットと美少女に代表される、キャラクターの突出した作品になりがち

D固定ファン向けを狙った類似作品が多発され、それと嗜好が合わない人間の嫌悪感を買いやすくなる

 本来実写映像からの脱出を図り、映像の可能性を広げる手段であった筈のアニメが、逆にアニメという狭い枠の中で生きる事に満足感を見出してしまっている事態が、多々見られる。繰り返して述べるが、全国民的に支持を受けている作品、そして映画史という長い記録にその名を留める作品は、ごく一部なのだ。アニメというメディアが一般に受け入れられているとは、筆者には到底信じがたい。それはアニメが好きな人には、当然危機感を持って理解されているだろう。

 もっとも、こうやって実写とアニメを分けて考えることは現在では愚かなことでもある。すでに海外ではCGが飛躍的に発達し、実写映像を補完する手段として活用され、これまで以上に驚異的な映像に満ちた作品作りを可能としている。実写とアニメは、すでに別個のものでなく、今まで以上に一体化した融合が始まっているのである。無論某国の特撮怪獣映画のように、それを売りにしたセンスのない作品が幅を利かせていることも事実であるが。それはともかく、平成「ガメラ」シリーズ、あるいは「もののけ姫」のように果敢にCGを取り込んで、質の高い映像を作り上げている作品とスタッフ達もいる事は確かである。しかし未だに安易にマニア向けのアニメを製造する人間達の、いかに多い事か。

 しかし一番恐ろしいのは、彼等だけでなくそれらの粗製品で育った世代が担う映像作品は、演出や物語に独自性も工夫もない作品を作りそうな点だ。オマージュという名を借りた、真似事だけの作品、キャラクターやビジュアル先行で作成される物語性のない作品、製作側や一部マニアの自己満足に終わる作品。これらが支持され、かつてのアニメという手段に走れず、大量の役者や火薬に四苦八苦し、少ない製作費と限定された日数の下で進行し、なおかつその中で映画的な面白さを盛り込もうとスタッフが神経を磨り減らせて演出と特殊効果を駆使した実写作品が軽んじられていいものだろうか?

 長い前置きとなったが、筆者は断言する。映画は実写だ! 漫画の映画化も実写だ! 二次元を三次元に置き換えるのに映画人が苦闘した実写マンガ映画を観よ! これこそが映像のマジックの真髄なのだ!

 ……というのは建前で、原作漫画と実写のギャップを楽しみたいというのが、大きな本音なんですけれどね(笑)。


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